金銭賠償の原則
2023/12/26
1 加害者から不法行為(民法709条)を受けことによって、被害者が大切にしていた財物が毀損した場合に、金銭的な賠償を受けることは意味がないと主張して、当該財物を原状に回復するように求めることができるかが問題となる。
2 不法行為を受けた場合の損害賠償の方法としては、金銭賠償の方法と原状回復の方法が考えられるところ、民法722条1項は、不法行為による損害賠償については、原則として金銭賠償の方法によることとしている。
金銭賠償の方法を採用した点について、「本来、損害賠償は、完全な損失填補ということからすれば、被害者にとって原状回復がもっとも望ましいが、原状回復としての『賠償ノ方法ハ徒二事物ノ混雑ヲ来タシ却テ不便』であって、『損害ヲ測定スルニ最モ便利ナル金銭ニ依リテ其賠償ヲ定ムル』(民法修正案理由書416条、なお721条参照)ことが、現在の商品社会においては合理的であり、立法論的にも一般に支持されている。」(注釈民法(19)344頁)とか、「諸外国の立法例では、現状回復の方法を認めるものも少くない。しかし、現状回復に多額の費用を要するときは、加害者に酷な結果になり、また、被害者も金銭賠償を便利とするのがふつうである。今日のように、商品の等価交換を基礎とし、金銭的価値を中心として動いている社会においては、やはり、金銭的損害が通常生ずべき損害だともいえるわけであり、金銭賠償が原則となる。」(加藤一郎「不法行為法〔増補版〕」215頁)などと説明されている。
3 そのため、交通事故で思い入れのある車両が壊れた場合であっても、交換価値を上回る補修費用の賠償は認められない。この点については、「事故車両の事故当時の車両価格及び買替諸費用が賠償されれば、被害者は同一の車両を手に入れることができ、その結果、被害を受ける前の経済状態が回復されるのであるから、被害者の救済として必要かつ十分であり、これ以上の賠償を認めることは、被害者が事故によって利得する結果となり、許されないからである。」(佐久間邦夫、八木一洋編「交通損害関係訴訟」229頁)なとと説明されている。
4 もっとも、法律で例外的に原状回復の方法によることを認めている場合もある。名誉毀損の場合には、名誉を回復するのに適当な処分(例えば、新聞への謝罪広告など)が認められることがある(民法723条)。また、不正競争を行って営業上の信用を害した者に対しては、営業上の信用を回復するのに必要な措置が認められることがある(不正競争防止法14条)。また、鉱業法111条2項は「賠償金額に比して著しく多額の費用を要しないで原状の回復をすることができるときは、被害者は、原状の回復を請求することができる。」と規定しており、原状回復請求を明記するものもある。
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